011 本は重いのか? その2
郵便局の段ボール箱(大)のサイズは、縦315ミリ×横395ミリ×高さ225ミリである。引っ越し業者の段ボール箱より縦10ミリ、横55ミリ、高さ85ミリ小さい。
事務所の3部屋のうちのひと部屋を空にして、そこに段ボール箱を積み上げた。だいたい5段くらい積み上げるのが通常だと思うが、それではたちゆかない。床から天上までどのくらい段ボール箱を積み上げられるか試してみた。
8段。これが限界だと判断した。
今度の事務所はワンルームなので、すべてのものをそのまま運びいれることはできない。机も椅子も本棚もコンピュータもすべて「事務所行き」と「自宅行き」に振り分けた。 本も事務所4、自宅6の割合で振り分けることにした。
引っ越しチームが間違わないように段ボール箱にオレンジ(自宅行き)と青(事務所行き)の2色のガムテープで目印をつけた。
最初のうちは、これは事務所、これは自宅、このジャンルは事務所、と考えながら本を詰め込んでいたが、引っ越し日まで10日を切ったところでそんな悠長なことをやってる場合ではないことに気付く。
仕事をしながら、食べる、寝る以外の時間はすべて「本を段ボール箱に詰める」ことに注ぎ込んだ。何にも考えないで、こころを無にして詰め込んだ。後日なんでこの本が自宅にあるんだよと後悔することになる。
当日、予想以上の段ボール箱の山に引っ越しチームは少し引き気味だった(笑)。
本は重いのだ。運んでも運んでも終わらない段ボールの山に、チームリーダーがぼやいていた。「これは若いものの仕事だよ」と。
部屋からトラックまで段ボール箱をバケツリレーのように運んでいくのだが、面白いことに気がついた。受け渡すときにその段ボール箱がどのくらい重いのか伝言ゲームのよう伝えていくのだ。「重いです」「もっと重いです」「もっともっと重いです」って結局全部重いんじゃないか(笑)。でもたまに本が詰まっていない文房具の段ボール箱があって、そのときは「軽いです」って。 ちょっと新鮮だった。急に軽いものを持つときは気をつけねばならないのだな。
チームリーダーがあんまりぼやくので、「おたくの段ボール箱につめないでよかったでしょ」って言ったら、リーダーが気色ばんで、「うちは段ボール箱いっぱいに本を詰めるようなことはしません。段ボール箱を積み重ねるのも4段までです」って言うから、ぼくは(そんなことしてたら段ボール箱が300個くらいになるんだよ)と、こころのなかで毒づきながら「そうですよね」と微笑んだ。
守先正
62年兵庫県生まれ。筑波大学芸術専門学群卒業、筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。花王株式会社(作成部)、筑波大学芸術学系助手、鈴木成一デザイン室を経て、96年モリサキデザイン設立,現在に至る。
池澤夏樹の著作では、『未来圏からの風』『この世界のぜんぶ』『異国の客』『セーヌの川辺』『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』などを手がける。
https://www.facebook.com/morisakidesign/