cafe impala|作家・池澤夏樹の公式サイト

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009 春子ブックセンター

青山スパイラルで開催されていた、大人計画という劇団が旗揚げ30周年を記念した博覧会『30祭(SANJUSSAI)』というイベントに行ってきた。
会場で上映される『春子ブックセンター』という演劇を観るためだ。
16年前、ぼくは、元マガジンハウスの編集者アライユキコさんからの依頼で、大人計画のその演劇のパンフレットのデザインをした。
どういう内容だったかはもうすっかり忘れていた。場末のストリップ劇場が舞台で、春子(松尾スズキ)はそこの劇場のダメ世話係。ブック(阿部サダヲ)は元・売れっ子漫才師。センター(河原雅彦)はそのマネージャー。久しぶりに再会した三人はじつは伝説の漫才トリオだった! というお話。いやそんな単純な内容ではないけれどあまりに複雑すぎて説明できない。いまやNHKの大河ドラマまで脚本を書く宮藤官九郎の大人計画本公演の初演出舞台だった。大人計画のひとたちが実に若い(当たり前だけど)。そしてマシンガントーク。キラキラしている。

左:宮藤官九郎『春子ブックセンター』白水社、カバーとオビの文字はすべて佐々木活字店の丸呉竹体の清刷りから使用。クラフト紙にシルクスクリーン印刷+オフセット印刷。

中:「春子ブックセンター」パンフレット 大人計画、ボルダという紙にシルクスクリーン印刷。イラストは川口澄子。

右:パルコブックセンター紙袋とブックカバー。イラストは日比野克彦。

映像を見ながらだんだん当時の記憶が蘇ってきた。
東急Bunkamuraの道を隔てた2階にある演劇人がよく出入りする喫茶店で、できあがったデザイン案をどきどきしながら宮藤さんにみせたことも思い出した。宮藤さんがトイレに携帯電話を落としてそれが使用できるのかどうか気にしていた、そんな些末なことは憶えている。
タイトルが『春子ブックセンター』なら、パンフレットの表紙のデザインは、「パルコ ブックセンター」のブックカバーをパロディにしたのでいいだろう。そう思った。日比野克彦さんがデザインしたパルコ ブックセンターのロゴが好きだった。知り合いのイラストレーターのがっちゃん(川口澄子さん)に、そっくりそのまま真似て描いてほしいと依頼した。じつは日比野さんに怒られるんじゃないかとビクビクしていた。

右上から、松尾スズキ『恋の門 フィルムブック』マガジンハウス。宮藤官九郎『春子ブックセンター』白水社。松尾スズキ『業音』白水社。松尾スズキ『業音』白水社。大人計画『七人の恋人』絵本型パンフレット。大人計画『ドブの輝き』チラシ、パンフレット。松尾スズキ『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』白水社。松尾スズキ『ニンゲン御破算』白水社。宮藤官九郎『七人の恋人』角川書店。鈴木成一デザイン室から独立したときの目標というか夢は、鈴木さんが第三舞台の宣伝美術をしていたようにどこかの劇団の宣伝美術をすることだった。

どうしてその演劇のタイトルが『春子ブックセンター』なのか? 宮藤さんに聞けずじまいでいた。
吉祥寺PARCOのなかにある「パルコ ブックセンター」が夏に閉店した。宮藤さんが閉店間際にそこで『春子ブックセンター』に関してトークショーをするという記事をみつけた。そのトークショーを聞けば、宮藤さんがそのことを話すのじゃないかと、応募した。でも残念ながら抽選に漏れてしまった。あとでネットで何かでていないかと検索したらこういうことをかいてあった。
「吉祥寺から登り方面の電車に乗ったらPARCOブックセンターの袋を持っている人がいて、その袋を見て題名を決めた」
吉祥寺パルコブックセンターはこの冬、「アップリンク吉祥寺パルコ」というミニシアターに変わった。

松尾スズキ30周年記念、大人計画30周年記念イベント「30祭 SANJUSSAI」2018年12月18日から30日 青山スパイラル

守先正

62年兵庫県生まれ。筑波大学芸術専門学群卒業、筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。花王株式会社(作成部)、筑波大学芸術学系助手、鈴木成一デザイン室を経て、96年モリサキデザイン設立,現在に至る。
池澤夏樹の著作では、『未来圏からの風』『この世界のぜんぶ』『異国の客』『セーヌの川辺』『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』などを手がける。
https://www.facebook.com/morisakidesign/