013 イルマ・ボームの5冊の本
そのひとには、一度しかお会いしたことがない。
それがいつだったのか、もうすっかり忘れてしまっていたので、調べてみることにした。「柳本浩市」。メールで検索をかけてみた。
2012年の10月20日のことだった。その日は、恵比寿にあるPOST(当時はまだlimArtという名称だったかもしれない)で期間限定の Book Market が開かれていた。そこで柳本浩市さんが主催する serendipity books がイルマ・ボームによるデザインのレア本を販売するという情報をいち早く聞きつけたのだった。
イルマ・ボームがライプツィヒ・グーテンベルグ賞を最年少で受賞した記念につくられた『IRMA BOOM GUTENBERG-GALAXI II』という本がある。
この本は非売品で、限定でつくられた本なので、日本の古書店で売られることはまずない。ぼくがアムステルダムまで行って、さんざん探した本を、柳本さんはもっているというのだ。しかも販売すると。
POSTでお話ししたのは、10分か20分かそのくらいの時間だったと思う。
ぼくからは、イルマはいまアムステルダム北駅のトンネルの内壁のタイル装飾のデザインをしているという話とピーター・ビラクの新しい雑誌『Works That Work』の話を。そして柳本さんからは、イルマは DE APPLE というギャラリーの図録のデザインをしているということと、新しく作り直しているアムステルダム市立美術館の設計はベンサム・クロウェルで、ウィム・クロウェルの息子だということ。と、ここまで書いてきていったいなんの話? と思われるかたが多いかもしれないけれど、柳本さんとそういう話をして、じつに楽しかった。
柳本浩市さんは、2016年3月に、急性虚血性心不全で亡くなられた。
たった一回だけ、お会いして、お話ししただけの関係でしかない。けれどもいまでもぼくの手元には、柳本さんから譲り受けた、イルマの5冊の本がある。かれは遠くて、近い存在なのだ。
2012年の10月20日のかれの Twitter にこう書いてあった。
《limArtだん。Irma Boomのレア造本などザクっと納品しましたが、目の前で5冊ほど売れてしまいました。気になる方はお早めに!》
帰り際に、柳本さんに「そういう話をどこかで発表すればいいのに」と言われた。
それから2年後の2014年9月から、ぼくはフェイスブックにいろいろと適当なことを書いている。
参考:
柳本浩市 https://fika.cinra.net/article/201709-yanagimotokoichi
serendipity books http://www.cbc-net.com/event/2012/09/book-market-limart/
イルマ・ボーム http://dotplace.jp/archives/tag/イルマ・ボーム
Irma Boom Office http://www.irmaboom.nl/
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甲州街道にかかる歩道橋をわたる
わたりおりたら
左折してすぐに
沖縄タウンのほうに左折
300メートルほどあるいていく
突き当たりを右折
すぐに左折すると
左手に駐車場がみえる
そのまえにあります
フロットサムブックス内アキ・モリス・ブックス
守先正
62年兵庫県生まれ。筑波大学芸術専門学群卒業、筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。花王株式会社(作成部)、筑波大学芸術学系助手、鈴木成一デザイン室を経て、96年モリサキデザイン設立,現在に至る。
池澤夏樹の著作では、『未来圏からの風』『この世界のぜんぶ』『異国の客』『セーヌの川辺』『ぼくたちが聖書について知りたかったこと』などを手がける。
https://www.facebook.com/morisakidesign/