cafe impala|作家・池澤夏樹の公式サイト

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動画公開

「池澤夏樹の書評の書き方講座」Part2の動画を公開しました

「池澤夏樹の書評の書き方講座」Part2の動画を公開しました

「impala e-books」1周年を記念して開催された「池澤夏樹レビューコンテスト」。その授賞式の一部として行われた「書評の書き方講座」の動画をお届けします。書き起こしテキストとあわせてお楽しみください。

 

*「Part1:池澤流・選ぶ技術」はこちら

https://impala.jp/news/書評の書き方講座1/

*「Part3:書評とエッセー」はこちら

https://impala.jp/news/書評の書き方講座3/

*「Part4:作家の気持ち」はこちら

https://impala.jp/news/書評の書き方講座4/

*「cafe impala」では皆さまからのレビューをお待ちしています

https://impala.jp/about/review/


 

(Part2:池澤流・書く技術)

 

Q:書評では何をどのように書きますか。「池澤夏樹」流があれば教えてください

 

毎日新聞の書評欄は、丸谷才一という作家が25年前に始めました。書評委員に優秀な人を選ぶ。どこだってそうなんですが、その書評委員に任期を決めない。ふつうは2年交代で、いい人でも手放してくれるんですよ。毎日新聞は任期がないから、他の新聞社がいい人を手放したらぱっと連れてくる。いい人だけが集まり、延々と続く。

 

書評とは何かということを丸谷さんたちと随分話をしたんだけれども、まず基本的にはほめる。むかしですと、特に学者たちは評価してやろうと思って、ここはいいけれどここはよくない、ということを、天下の新聞でやっている。業界紙ならいいですよ。だけど書評というのは、「この本面白かったから、きみも読むといいよ」というのが基本の姿勢です。そのためには「おれのほうがものを知っているぜ」といって欠点を挙げてはいけない。最初からそういう本は取り上げなければいい。

 

みなさんが書かれる書評とぼくらが書く書評のいちばんの違いは、何も知らない人に向けて、それがどういう本であるかを簡潔に、上手に伝える必要があるということ。だから本の性格をきちんと記述しなければいけない。その上で、どこがどう面白いかを伝える。2段階あるわけですね。

 

丸谷さんが言っていたのは、夜、バーなんかで飲んで話しているときに、読んでいない本をあたかも読んだかのように言えるような内容の説明がほしいと。知ったかぶりができる。「この本はね、こうなってこうなって」と言うと、聞いた人は後で読むでしょう。本の性格、性質——フィクションだったらだいたいどういうストーリーで、主人公は誰で、どんな展開で、ということです。少なくともミステリーか純文学かぐらいはわからないと困る。

 

そういう内容の紹介が、まず技術的に大事。そして読みどころを伝える。場合によっては、その作家の前の作品との比較をすることもあるかもしれない。その辺りは客観的な話ですね。そうやって、よいところをうまく伝えようとする。それが職業的な書評家の姿勢だと思います。

 

Q:フィクションとノンフィクションとでは、書評の姿勢は違いますか

 

ノンフィクションという言葉が半端で、どうもぼくは好きでないんです。つまりフィクションでないというネガティブなところである種の本を規定してしまうのは、何だかもったいない。ぼくはルポルタージュ文学と呼んでいます。

 

実際にはそんなに違いはないと思います。内容を紹介して、いかなる性質の本であるかを伝えて、その後で個人的な評価を付け加える。その点ではちっとも変わりません。

 

ただ小説の場合は、純文学であれば、主人公は誰でどんな話の展開で、という以上に、文学として作者がどういう工夫をしているかを見ます。何かが新しい、何かが違う。そこが魅力である、あるいは革新的である。そのポイントをある程度説明しないといけない。

 

それに対してノンフィクションの場合は、テーマが何であるか、どこまで肉薄しているか、解析は正確であるか。そういう分析のほうが前に出てくるかもしれない。客観的なね。

 

Q:短い書評と長い書評で違いはありますか

 

短い書評では、毎日新聞の短評というものがあります。これは200字ぐらいかな。ふつうに書くのは3.5枚だから1400字ですね。それがスタンダードサイズ。特に大きい書評では、さっき申し上げたとおり2000字。

 

むかし文芸雑誌で、制限なしの書評をやっていたことがあります。そのときは20枚から30枚ですから1万文字以上を書きました。

 

さっき言い忘れたんですけれど、ぼくらの書評で大事なのは、引用をうまく使うということ。その本の一部をちょっとだけ引用することで、まず文体がわかる。それから、いちばんキーのところを選んでくると、作者の意図も伝わる。引用を巧妙にちりばめて匂いをかがせるというか、文体の雰囲気を伝えた上で評価をしていく。そのあたりは、ちょっと高等技術です。

 

だから書評対象とした本を読みながら、マークしていきます。ここは使える、と。付箋をはって、ぼくはふつう柔らかい鉛筆でマークをつけていくんですけれども、そうしてざっと見て、もう一度読み返しながらだいたいの組み立てを作る。2000字だと組み立てを用意しないとちょっと難しいから。そういうことは技術として、スキルとしてあるかもしれません。

 

(Part3に続く)