「池澤夏樹の書評の書き方講座」Part1の動画を公開しました
「impala e-books」1周年を記念して開催されたレビューコンテスト。その授賞式の中で行われた「書評の書き方講座」の動画を、全4回に分けてお届けします。書き起こしテキストとあわせてお楽しみください。
*「Part2:池澤流・書く技術」はこちら
https://impala.jp/news/書評の書き方講座2/
*「Part3:書評とエッセー」はこちら
https://impala.jp/news/書評の書き方講座3/
*「Part4:作家の気持ち」はこちら
https://impala.jp/news/書評の書き方講座4/
*「cafe impala」では皆さまからのレビューをお待ちしています
https://impala.jp/about/review/
(Part1:池澤流・選ぶ技術)
Q:池澤夏樹さんは多くの書評を発表しています。現在の書評活動について教えてください
確かにぼくは随分たくさん書評をしてきました。ここ20年、毎日新聞の「今週の本棚」という、日曜日の朝刊のコーナーに年に7、8本書いています。それから週刊文春の「私の読書日記」というところで書いています。これは5人のローテーションですから、やはり年間10本になります。
これらをずっと続けてきて、それ以外のところは手が回らないのでお断りしています。書評はこの2つのメディアで書いています。
Q:書評する本はどのように探して/選んでいますか
これは大変です。非常に広い範囲で目を光らせています。新聞広告は全部見ます。ちらりとでも目を留めるようにするし、少しでもアンテナにひっかかりそうなものは取り寄せます。
ぼくはフランスに5年いたんだけれども、その間も毎日新聞と週刊文春の書評は続けていました。月に1回、段ボール1箱分の本が日本から届くわけです。まず目を通したい本のリストを日本に送って、日本から本を送ってもらう。その中から、これは今でもそうですけれども、まず相当な速読みをします。読むまでいかないぐらい。目次を見るだけのこともある。それで、だいたいどんな本であるかをざっとつかむ。
しばらく経ってから、その中から絞り込んでいく。こっちの見当違いでどうにもならない本も、実はたくさん来ます。タイトルと著者と出版社、それからせいぜい帯のコメントぐらいしか情報はないわけだから。それは除いていって、最後はこっちかこっち、で選ぶ。
毎日新聞のほうは1点ですから、ぎりぎりの勝負。本当にほめられるものを選び出す。週刊文春は見開き2ページあるので、1点に絞らなくていいんです。2、3冊で何か流れができて、読書に関するエッセーになればいい。だから少し姿勢が違うんです。
毎日新聞の場合は、本気でみんなに読ませたいという意気込みが投入できるものを選ぶ。この間の日曜日にぼくが載せたのは、『戦争と子ども』。セルビアに住んでいる、山崎佳代子という詩人とその息子が作った本です。息子さんが絵を描いています。彼が絵を描いたのは12歳のとき。15年前ですね。セルビアが内戦で、NATOの空爆でさんざんな目に遭っている時期、学校にも行けないから家で絵を描いていた。少し不気味で、非常にファンタスティックで、しかしどこか温かい、いい絵なんですよ。それに母親が、同じ時期に難民の支援をしてきた、そのときの記憶からいくつかのエピソードを出して書いている。その2つを並べてある。
西田書店という小さなところから出ていて、本当に目立たない。この場合は「売ったるで」という感じで力を込めて書きました。そういう本に出会えたときは、書評家として非常に嬉しい。特に、目立たない本を目立たせるのはとてもいい気持ちですよね。
まずは自分のテリトリーを決めて、その中で書評するに値する本を、目を光らせて読んで、その中から選ぶ。これが本の選び方です。
(司会:最初にリストを作るとおっしゃっていましたが、そのリストはどうやって作るのですか。)
まず新聞広告。それから業界の噂。あと大事なのは、出版社が出しているPR誌ですね。「図書」とか「波」とか。「図書」は岩波書店、「波」は新潮社。それから「青春と読書」は集英社。その他いろいろあります。
例えば新潮社が自分のところの本についてエッセーを載せているのが「波」なんだけれども、大事なのはその横にある小さな出版社の広告なんですよ。あそこに大事な情報が隠れている。新聞の広告では、いわゆる三八(サンヤツ)。業界用語で三段八つ組といいます。朝日新聞でも下の方に8冊並んでいますね。あれはまず目を通します。それから送られてくる本もあります。その中でヒットするものもあれば、しないものもあります。
(Part2に続く)