キトラ・ボックス
キトラ古墳の謎、北京の陰謀。1300年の時空を超えた考古学ミステリー
奈良天川村-トルファン-瀬戸内海大三島。それぞれの土地で見つかった禽獣葡萄鏡が同じ鋳型で造られたと推理した藤波三次郎は、国立民族学博物館研究員の可敦(カトゥン)の協力を求める。新疆ウイグル自治区から赴任した彼女は、天川村の神社の銅剣に象嵌された北斗が、キトラ古墳天文図と同じであると見抜いた。なぜウイグルと西日本に同じ鏡があるのか。剣はキトラ古墳からなんらかの形で持ち出されたものなのか。謎を追って、大三島の大山祇神社を訪れた二人は、何者かの襲撃を受ける。窮地を救った三次郎だったが、可敦は警察に電話をしないでくれと懇願する。悪漢は、新疆ウイグル自治区分離独立運動に関わる兄を巡り、北京が送り込んだ刺客ではないか。三次郎は昔の恋人である美汐を通じ、元公安警部補・行田に協力を求め、可敦に遺跡発掘現場へ身を隠すよう提案するが――。
作品情報
発売日:2017/3/25
出版社:KADOKAWA
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この作品のレビュー
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『 キトラ・ボックス 』
世界地図の、いや地球儀の、ユーラシア大陸の中央辺りから東側、そして朝鮮半島を経て日本海をはさみ日本列島の西側。日本国を悠に超えた地域を思い浮かべる。
この広い地域が壮大なミステリードラマ「キトラボックス」の舞台である。時は、飛鳥時代と現代。池澤氏のミステリー小説は、初めて読んだのだが、池澤氏らしいロマン溢れるストーリー設定と知見に富んだ魅力的な登場人物達に、即気持ちは引き込まれた。
倭国の時代に国を動かし政を行い、日本国を作っていった貴族達。そして海を超えて大陸に渡った遣唐使達。彼らの高い志や雅な生活や文化の記述は文中に多いというわけではないが、充分に頭の中に映像で再現することができた。歴史の授業で習う有名人の名前もいくつも登場し、彼らの動向は興味深いドラマ仕立てで展開されていく。
ほぼ知識のないウイグルの風土や文化や生活の様子などは、この地域出身の考古学研究者、物語の主人公「可敦」を通して色鮮やかに再現されている。大陸の砂漠の中の大きな都市で、絹織物の服を纏い、金の装身具を身につけて暮らすウイグルの女性達の優雅でひたむきに生きる様子が目に浮かぶ。
時を超えて二つの国を結ぶ物語は、宝物の銅鏡や、かの有名なキトラ古墳の石室内の壁画、ウイグルやチベットと中国との諸々問題と、池澤氏的なスピリチュアル要素とを織り交ぜながら、優しく、しかしながら速いテンポで進んでいく。
残虐非道な記述の全くないミステリー小説で、そこがこれまで読んだ他の作家の多くのミステリー小説と大きく異なる。あくまでも純粋に、「何故?」の部分へ、興味が自然に湧き起こるのだ。しかも歴史や文化人類学の教養の分野にまで強い興味が生まれ、50代の普通のパート従業員の私が今後もっと勉強したいとまで思ってしまう不思議さがある。ミステリー小説を読んでここまで知的探究心をそそられたのは初めてである。
もうひとつ心境に変化があった。星の導きを占う陰陽師についてだ。現在の高度文明の社会ではもはや、その技術も存在もどこかへ据え置かれているだろうけど、かつてはきっと本物の実力を持つ陰陽師のような人間が存在していたのかもしれないと考えるようになった。科学とスピリチュアル、相反する両方に深い知識と思想のある池澤氏ならではの、美しく優しい教養の深いミステリー小説である。ジェイク


