海図と航海日誌
作家の池澤夏樹は書評家としても知られている。彼ほどよく本を読み、よく書評を書く作家はいないだろう。圧倒的な読書量を誇る彼の作品は、小説にしろ評論にしろそもそもブッキッシュなのだが、理知的な書評となったらまず右に出る者はいない。権威によって本の価値を定めようとする文芸評論家たちの独り言とは異なり、池澤の書評は精緻かつエレガントに描かれた地図のように明晰である。
序章に「四十数年の歳月をかけて航海した本の海へのレトロスペクティヴ」とあるとおり、本書は池澤夏樹の半世紀に及ぶ読書遍歴の回想である。「スイッチ」の3年にわたる連載をまとめたもので、出てくる著者、書物はそれこそ膨大。ロレンス・ダレル、ガルシア・マルケス、ジョン・バース、トマス・ピンチョン、カート・ヴォネガット、サン=テグジュペリ、中島敦、森鴎外、そして著者不明の民話や聖書まで、世界の名作が彼の読書体験に沿って的確に論じられる。「文学史に沿った、平凡な展開」というが、質、量ともに、世界文学をこれだけ読んでいることには驚かされるに違いない。ベスト99の一覧表がついた最終章「寄港地一覧 あるいは九十九の小説」は、範囲が小説に限定されているとはいえ、池澤のファンにとっては興味深く、うれしい資料である。本書は、自伝や身辺雑記を書かない作家の精神史を知る手掛かりであると同時に、世界文学という本の海を渡ろうとする人にとって、頼り甲斐のある水先案内人となるだろう。(齋藤聡海)
作品情報
< 目次 >
序 日々の糧と回心の契機
一 地中海世界の彼方へ
二 子供の読書と大人の読書
三 意味とひびき
四 地理的人間
五 知識のゲーム性
六 自分の国
七 うまく作られた物語
八 科学と知的好奇心
九 三人のアメリカ作家
十 画家との交際
十一 M氏とT氏
十二 読みの構造
十三 民話にはじまる
十四 写真の時代
十五 南洋との出会い
十六 本との別れ
十七 書棚に背を向けて
十八 塔が崩れてから
十九 寄港地一覧 あるいは九十九の小説
発売日:1995/12/1
出版社:スイッチ・パブリッシング
- 購入する:
-
- 古書を探す:
この作品のレビューを投稿しませんか?
cafe impala では、読者のみなさんのレビューを募集しています!
» レビューについて
レビュー投稿ガイドライン
- 投稿は400字以上を目指してください。
- 投稿いただいたレビューは、cafe impala 編集部の承認後、サイトに表示されます(投稿後、すぐに表示はされません)。
- サイトに表示されたレビューは、impala.jp 内の複数媒体 [単行本版/文庫本版/impala e-books (電子書籍)版] に共通して掲載される場合があります。
- 投稿レビューの著作権は、投稿された方にあります。ご自身のレビューは、後日他のサイト等でも利用することができます。
- 投稿に際して入力していただく個人情報は、cafe impala の制作運営に関連するcafe impala編集部、impala e-books編集部からの連絡に限り利用させていただきます。
この作品のレビュー
レビューはありません。