インパラは転ばない
大事なのは好奇心であると思う。
山には可愛いキツネ、地下鉄のホームではとびきりの美女。コロンボ空港には愉快なペテン師、イスラエルの街角では巨大なパフェ——。
研ぎ澄まされた視力と聴力、どこまでもスタスタ行ってしまう体力と方向感覚。
そんな旅の達人が、日常から非日常へ、過去から未来へ、地球のあちこちへと連れて行ってくれる。軽やかなエッセー集。
作品情報
文庫版所収の解説なし
発売日:2015/02/05
発行:株式会社ixtan
製作・発売:株式会社ボイジャー
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この作品のレビュー
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『 インパラは転ばない 』
初めて宮古島を訪れたとき、空気がしっとりと重く花の香りなのか何なのかとてもかぐわしく感激したのですが、ああ、この感じなんと表現したら良いのか、誰かうまいこと表現してなかったかなと探していたところ、この『インパラは転ばない』に出会いました。
「タラップを降りる一段ごとに、湿った暑い空気にたっぷりと混じった芳香が肺の中に浸透して、ああ、熱帯に来たと思わせる。それは何度くりかえしても感動的な体験だ。」と。
まさにそのとおりだったので驚き、またそう言葉で表されているので、今後はこの文を読めばその時の感動を何度でも思い出すことができると嬉しくもなりました。
そんな感じで池澤さんが旅した場所について書いてあるのですがそのほかの話も大変興味深く、参考になりました。
というのも、単に旅というよりは短期間でもそこでちゃんと暮らしている感じがして、本当はどこに住んで何を見聞きし何を食べて生きるのが良いのか考えさせられたからです。
地方について「ぼくは日本の都市というものにうんざりしていた。どこへ行っても基本の部分は共通で、その表面にほんの少しだけ貧相な地方性が載っている。」とありました。
私自身子供時代は地方都市で育ち、まさにその貧相さが嫌で地方を離れたのでした。
池澤さんはそれでその後那覇に転居したそうですが、その沖縄の記述も素晴らしく、まるで理想の国のように思えてくる。
そしてまた生まれ故郷に転居したそうですが、なぜそうしたのかを訊ねてみたいです。
そして住むところだけでなく、食事だっていいものを摂ってる。
いいもの、といってもそれは高級品というわけではではない、その場所でその時しか食べられないもの、タイの汽車の中で売られている串に刺してパリパリに焼かれた豚肉と糯米を平たく固めたおにぎりの世界最小の焼肉定食、ギリシアの滋養のある朝食とネスカフェ、太平洋の南の小さな島のヤシ酒…。
私は地方を離れた今なお地方都市同然の町に暮らし、スーパーで買った全国どこでも手に入る食材で作った貧相な食事をしている。こんな生活がつくづく嫌になってくる。
池澤さんも旅先から帰るのはさぞ嫌なことだろうと思いきや…、惜しいとは思いながらも「快適で、清潔で、安全で、ものが匂わない空間」に「もう一度変身」して帰ってくる。
帰ってくる場所もまた旅先なのか。
と、自分の感想ばかり書いてしまいましたが、この本には飛行機や乗り物、空港や、旅程を味わっている様子も具体的に詳しく書いてあり移動自体を楽しむこともまた旅であることがよくわかり、今まで単に移動してるだけだった自分の旅した時間が惜しく思えたのでした。
島村晴子