夏の朝の成層圏
漂着した南の島での生活。自然の試練にさらされ、自然と一体化する至福の感情。それは、まるで地上を離れて高い空の上の成層圏で暮らすようなものだった。暑い、さわやかな成層圏。やがて、夢のむこうへの新しい出発が訪れる——青年の脱文明、孤絶の生活への無意識の願望を美しい小説に描き上げた長篇デビュー作。
作品情報
出版社:中央公論社、後に中央公論新社
出版年月:1990/5
あとがき などコンテンツの違いのある部分:
解説(鈴村和成)
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この作品のレビュー
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『 夏の朝の成層圏 』
この本について僕はもう何も論じたくありません。僕がこの本に抱く想いは殆ど恋と言って良いでしょう。
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とにかく最初の書き出しから最後の1フレーズまで、一字一句、本に書かれた文章を拾っていけば、それだけで本当に自分が・・・
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漁船から落ちて南太平洋の小さな環礁の島に漂着し、
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最初は生き残るために必死に頭と体を働かせてサバイバルし、
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やがて思いがけない人物や精霊たちとの出会い・交感を通じて、
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人間とは?文明とは?自分の体験の意味とは?・・・
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という思索に入っていく★主人公になりきる★ことが出来ます。
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「遠く水平線の近くに白いフワフワした雲の塊が並んでいる。三檣帆船の艦隊のようだ。その帆の先端の辺りではまだ空はそれ程青くはない。しかし登るにつれて空は青味を増し・・・」
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イントロのこのフレーズは僕にとっては「智に働けば角が立つ。情に掉させば流される・・・」
とか
「ある特定の個人を書こうとすると、一つのタイプを創り出してしまう・・・」
とか
「この物語を書き始めるにあたって私はある戸惑いを覚える・・・」
といった古今東西の有名な本の書き出しに匹敵する忘れられないフレーズの一つです。僕はこのワンフレーズで完全にこの本に捉えられてしまいました。
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池澤夏樹が凄いのは、主人公の思考の流れ=自分だったらこう考える・ああ考える・・・ということを、読者の思考に絶妙にシンクロさせる、静的で心地よいリズムのある文章を書くこと。
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本当に文章が詩のようです。
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読んでいる間中、本当に自分は南太平洋の孤島のヤシの木陰で夏の朝の空気を吸っているような気分になりました。
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この本読んだおかげで毎年夏は必ず透明な海に潜りに行くし、たまにタイに行ったりしますが、出来ればまたモルジブかあわよくば大金稼いでマーシャル諸島に行って環礁の中で潜りまくりたいなぁ~。 -
『 夏の朝の成層圏 』
池澤夏樹さんの大ファンです。「夏の朝の成層圏」は、30年ほど前パラオの小さなホテルのロビーの本棚で、偶然手に取りました。以来「人生の一冊」になっています。島の精霊と主人公の語らいの部分に特に共感しています。初めてレビューを投稿致します。どうか池澤夏樹さんに気持ちが届きますように。
久米由美