cafe impala|作家・池澤夏樹の公式サイト

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エッセー/紀行

南鳥島特別航路

著者:池澤夏樹

自然は容易な相手ではないし、地球はわれわれだけのための星ではない。

サハリンの雄大な白樺から八重山諸島の豊穣なマングローブへ、さらには日本最東端に位置する絶海の孤島、南鳥島へ。東西3000キロ、南北2500キロにおよぶ探査の旅は、日本列島の多様な自然を明らかにし、旅人はその先にこの星の姿を見る。その眼差しは、荘厳な大自然とそこに暮らす人々への深い畏敬に満ちている。
人類誕生の遥か昔より恒久に続く、大自然の厳かな営みを、鋭利な科学の眼と真摯な感受の視線で綴る12編の大紀行。

作品情報

< 目次 >

五島列島のミニ火山群
内間木洞の暗黒体験
白蜂、炉端で聞く豪雪の話
八重干瀬、気宇壮大な潮干狩り
立山砂防百年の計
サハリン、北緯四七度の白樺林
乗鞍岳に降る宇宙線
白神のブナと秋田の杉
南鳥島特別航路
雨竜沼、湿原の五千年
対馬、大陸へつながる海の道
八重山諸島、マングローブの豊穣

文庫版所収の解説なし

発売日:2015/02/19
発行:株式会社ixtan
製作・発売:株式会社ボイジャー

南鳥島特別航路
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この作品のレビュー

  • 『 南鳥島特別航路 』

    「南鳥島特別航路」は、私にとり特別な一冊です。

     本書をはじめて手に取ったのは、1991年3月でした。一人目の子どもの出産を10月にひかえていた私は、母になる前に旅に出て広い世界を見たいという気持ちでいました。生まれてくる子供にも、お腹にいる時に愛読していた本として贈ることができればいいなとも思いました。

     それから二十四年、本書はいつでも書棚の中央にあり、私を十二の旅に連れていってくれます。1991年生まれの息子は、現在札幌に住み、池澤夏樹さんの本を愛読し、北海道立文学館で行われる講演会に足を運んでいます。

     本書に収められている十二の紀行文は、東京に住む私を豊かな自然に誘ってくれます。人々が普通に生活するのとは異なる日本の姿を、池澤さんの文章と写真から感じとることができます。日常生活に疲れたとき、本書を開くと、今、この十二の地域が同じ日本の中にあるのだということを実感して不思議と力が湧いてくるのです。本書は私にとり、今いる世界から心を解き放つ扉になっています。

     火山、洞窟、豪雪、孤島といった環境に身を置くことは、現在それほど難しいことではありません。本書で取り上げられている地域のことを知りたければインターネットで検索して多くの情報を手に入れられます。しかし私は本書を決して手放すことができません。旅の中で池澤さんが感動したこと、今後考えていかねばならないこと、それに関連する興味深い知識が洗練された美しい文章で表現されていて、一緒に旅に行ったような贅沢な気持ちになるのです。本書を何回読んでも、南鳥島に向かう時の船上での緊張感や、トビウオがすっと飛ぶ姿が伝わってきてはっとさせられます。その生き生きとした感覚は、自分が経験するのと同じくらい鋭く、鮮やかなものです。

     本書を愛読して二十四年たち、たとえ旅に出かけなくても身近な自然を見て、私たちは心を解き放てるのではないかと思うようになりました。池澤さんは、とても遠くまで苦労をして出かけられていますが、自然に対する眼差しや、自分の五感を通して外の世界を感じることや、そこで人々がどのように生きているのかを考えるという姿勢は日常生活の中でも持てるのではないかと教えられたような気がします。そしていつの日にか、本書を持って池澤さんの旅した地域を訪れることができれば、さらに深く、その場所の魅力を実感することができると思います。

     本書は、旅のすばらしさ、自然の豊かさ、日本の面白さなど多くのことを私に伝えてくれました。何回読んでも、新たな発見と感動を味わうことができます。あまり旅をすることもなく、毎日あくせく生きていても、こんなにすばらしい場所があるということに思いを馳せ、身近な空や動植物に目を向けて生きてこられたことが大きな糧になっています。「南鳥島特別航路」は、私の人生を一緒に旅をしてくれる、かけがえのない一冊なのです。

    川原尚子
公開:2015年09月21日 - 最終更新:2019年06月24日