タマリンドの木
人は結局は自分のために愛するのかもしれない。
タイのカンボジア難民キャンプで働く修子と会社員の野山は偶然の出会いから互いに強く惹かれ合うが、「自分がやっている仕事の意味に疑問を感じることはないから楽なの」と言う修子は難民キャンプを去ることは考えられない。会社の期待を背負い、東京に暮らす野山が取った行動は…。
遠く離れても寄り添う恋人たちの心のうちを鮮やかに描き出す。池澤夏樹はじめての恋愛小説。
作品情報
文庫版所収の解説なし
発売日:2020/09/25
発行:集英社
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この作品のレビュー
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『 タマリンドの木 』
短い作品ですが、多くの問題に触れています。日本社会における雇用の問題、難民キャンプ、「国際貢献」と呼ばれるものの実態、生きがいとは、家族とは、結婚とは、などなど。そしてもちろん、人を愛することについて。
恋愛小説として、あらすじや展開としては非常にわかりやすいです。なおかつ、丁寧な言葉で紡がれているところが、池澤作品の魅力かと感じています。色々なことを、頭で論理的に整理しようとしても、心が走ってしまったり、そしていつか、宇宙的な力に動かされたり。人間というものの小ささと、それでもできるかぎり生きようとする人たちの両方が映されています。
9年間タイに暮らしました。登場する場所も、「きっとあそこに違いない」と、住んでいる人なら分かるもので、嬉しかったです。空港も、今のものになる前の、あの喧騒が思い出されました。
私は教師です。高校生の国語の授業で、この作品を何度も取り扱ってきました。文学的な語りの工夫はもちろんですが、何より、この小説が読者に示すその姿勢に強く共感しています。私の学校の生徒たちは、国際的な場所に出て、コミュニティープロジェクトに関わる機会がありますが、この作品を読んで、「人助けをしたい」と思っている彼らの考え方が変わっていくのを目にしてきました。また、仕事や社会における男女の役割など、規定の価値観に問いかけるという意味でも、十代の彼らといくらでも議論を進めることができます。
小説が示す「姿勢」という意味では、他の池澤作品にも共通することでしょう。しかし、わかりやすい恋愛、ほどほどの長さ、そして国際貢献についての話題というバランスが、高校国語の授業で非常に取り扱いやすく、現在入手ができなくなっていることに、困っています。e-booksになって、日本国外からも入手がしやすく喜んでいたのですが、ついに入手ができなくなってしまいました(2019年6月23日をもって電子書籍の販売を一旦終了とのこと)。
何かしらの手段で、近日、また入手できるようになるといいのですが。いかがでしょうか。Jun Nishimoto