虫とけものと家族たち
ある夏、変わり者ぞろいのダレル一家は明るい日の光を求めて英国を抜け出し、ギリシアのコルフ島にやってきた。末っ子のジェリーは豊かな自然、珍しい虫や動物たちに夢中になるが、数々の騒動と珍事件をまきおこす―訳者をして「ここに溢れる幸福感につられてギリシアに渡」らせしめた、おおらかでユーモアに富む楽園の物語。
作品情報
発売日:2014/6/21
出版社:中央公論新社
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この作品のレビュー
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『 虫とけものと家族たち 』
個人的な話。昨年27歳の私は、妻との新婚旅行でギリシャ・コルフ島を訪れた。勿論、本書を繰り返し読むうちに生まれた「この幸福な土地を実際にこの目で見たい」という衝動を妻に押し付けたのだ。
コルフ島は、予想を裏切らなかった。
旧要塞(パレオ・フルリオ)の頂上から眺めた一面の海と、そこに反射するきらきらした陽光。
空は果てしなく、いつまでも飽きることのない景色。昼からタベルナでワイン片手に喋る人たち。
アテネやサントリーニ島も訪れて垣間見えた。池澤夏樹氏を魅了したこの土地のすばらしさが。
〇
本書は、どこまでも透明なダレル少年の目に映る非凡で愉快な人々、虫・動物、自然の間で織りなされるエピソードの束だ。
しかしそこに描かれたものが事実かといえば、多分そうではなくて、例えばショウペンハウエルにこんなことばがある。
「他人の生涯に起こった痛快な出来事を羨む人があるが、そういう人はむしろ、他人が痛快な出来事として描写しうるだけの重要性をその出来事に認めたというその把握の才をこそ羨むべきであろう」
〇
数々の印象的な場面がいつまでも私の心象を満たす。
紳士気取りの長兄ラリーが湿地で鳥を落とそうと猟銃をぶっ放して用水路に落ちる。そこでの馬鹿丁寧な援助要請には腹を抱えて笑った。
「ホタルのページェント」では、海中で美しく輝く夜光虫を纏ったイルカがホタルと躍り、夢のように幻想的なイメージを呼び起こす。池澤氏は本書の翻訳がきっかけでギリシャへ渡り、生活したことを『ギリシャの誘惑』にまとめている。そのなかで彼は、「幸福のトラウマ」という表現を使っている。
そしてそれは、「帰りたくなかった二人」(『南の島のティオ』収録)の次のことばに託されている。
〇
「そう、きっと来るよ」とトムさんも、あいかわらずの小さな声で言った。
しかしその言葉を聞きながら、この人たちは二度と来ないのではないかとぼくは思った。
……あまりに魅力があるからこそ、危なくて二度と近づけない、彼はそんな風に思うのではないだろうか。
〇
それでもなお、幸福な物語は人を変える。そして旅へ誘うのである。矢野目 大地