20181231日 天気:曇り

 

魂の政治家 翁長雄志発言録

 店番をしながら今年を振り返ってみようと目を瞑ってみたけれど、上半期のことがほとんど思い出せない。
 目を開けても、いつもの店番の風景が怠惰に横たわっているだけだ。
 年末だというのに人通りの少ない道、寒そうに揺れる植物たち、向いの金城商店のテレビから流れる騒々しい画面。
 あの日もこんな風に店番をしていたのだった。
 翁長雄志元知事が亡くなられた8月8日。
 その日、店番のカウンターからテレビで謝花喜一郎副知事の記者会見を見ていた。療養中の翁長さんに代わり富川盛武副知事が職務代理を務めると。
 向いの金城さんやお客さんと「お体が心配だね」「ゆっくりと休んで、またお元気になってほしい」と言葉を交わしたけれど、みんな不安を隠し切れなくてすぐに口をつぐんだんだっけ。
 市場からの帰り道をCOFFEE potohotoのさえちゃんと歩きながら、わたしたちの命を翁長さんに少しずつ分けられたらどんなにいいだろうと話した。でも、その時もやっぱり会話は続かなかった。
 夕方、家に到着してすぐに翁長さんが亡くなられたニュースを聞いた。
 地面がぐらりと大きく動いたように感じて、体がふらつきそうになった。悪い夢みたいだと思考を停止させたくて、早い時間に寝室のベッドに潜り込んだ。薄暗い寝室に大きな悲しみが押し寄せてきて飲み込まれそうになる。布団を頭まで被ると、今度は絶望がひたひたと浸食してくる。
 深い眠りから起きたとき、夜はすっかり明けていた。カーテンの隙間から細い光が床に差し込んでいた。やっぱり悪い夢を見ていたのだと少し元気になって携帯電話でニュースをチェックした。
 携帯に溢れる情報は容赦がなくて、翁長さんが亡くなられたことが現実だったのだと再び打ちのめされた。
 家族でも友人でもない人の死に、ここまで意気消沈したことはなかった。
 
 今、この国を司る政治家から出てくる言葉は不誠実で無責任なものばかりだ。質問への答えもちぐはぐ、不都合な問い掛けは無視。空虚。
 抽象的な言葉を力強く発するその顔は、年齢と不釣り合いで幼稚。ニタニタと笑う表情に締まりはなく、思考を重ねた大人の顔には見えない。
 そんな政治家たちに慣らされたわたしたちに、翁長さんは本物の政治家の姿を見せてくれた。本物の政治家の言葉を聞かせてくれた。
 イタリアの政治学者ガエターノ・モスカによると、政治家とは「統治システムにおける最高の地位に達するのに必要な能力をもち、それを維持する仕方を心得ている人物」、「その知識の広さと洞察力の深さによって、自分が生きている社会の欲求をはっきりと正確に感じ取り、できるだけ衝撃や苦痛を避けて、社会の到達すべき目標に導く最善の手段を発見する方法を知っている人」だそうだ。
 翁長さんはまさに政治家だった。学び続け、思考を重ね、常に沖縄の民衆に寄り添い、沖縄の痛みを取り除こうとしてくれた。
 そうだ、政治家とは本来、人よりも優れているから選ばれるのだ。
 欺くことが上手い人間が、民衆を都合良く煽る人間が政治家になっていいのか?
 民衆を幸福にするのが政治家の仕事であって、自分たちの利益のために生きる者が政治家と言えるのだろうか?
 未来への希望ある展望を語れる政治家が、今どれだけいるだろう?
 
 翁長さんは公での最後の姿は、7月27に行われた前知事の辺野古埋め立て承認「撤回」手続き表明の記者会見だった。沖縄のあるべき姿、大きな可能性を持つこの島の未来を最後までわたしたちに示してくれた。
 
 アジアのダイナミズムを取り入れ、アジアが沖縄を離さない。沖縄はアジアの地政学的な意味も含めて経済ということでは大変大きな立場になってきている。こういったことなどを平和的利用、アジアの中の沖縄の役割、日本とアジアの懸け橋、こういったところに沖縄のあるべき姿があるんではないかと思う。
 いつかまた切り捨てられるような沖縄ではできない。この質問にこんなに長く答えていいのかということもあるかもしれないが、思いがないとこの問題には答えられないんですよ。この思いをみんなでどういうふうに共有して何十年後の子や孫にね、私たちの沖縄は何百年も苦労してきたんだから、今やっと沖縄が飛び立とうとしている訳だから、そしてそれは十二分に可能な世の中になってきているんで、そういう中で飛び立とうとしているのを足を引っ張ろうとして、また沖縄はまあ振興策もらって基地を預かったらいいんですよなどというのもが、これから以降もこういうのがあったら、沖縄の政治家としてはこれはとても今日までやってきた政治家が、私と別なことを言っている場合には、私からすると容認できないというような思いだ―――『魂の政治家 翁長雄志発言録』
 
 翁長さんが亡くなられた失意の中で、わたしたちは新しいリーダーを選んだ。翁長さんの意志を引き継ぐ政治家。
 それに復讐するかのように沖縄に重くのしかかる問題はグロテスクになっていく。それを押し進めるのは誰だろう。この島を更に深く分断しようとするのは誰だろう。
 力なくうなだれてしまいそうな時もあるけれど、そんな時は翁長さんを思い出して心を立て直す。
 彼の言葉はわたしたちの中に強く生きる。
 彼の姿はわたしたちの目に鮮烈に焼き付いている。
 本物の政治家と同じ時代を生きられたことに感謝する。
 あのようなリーダーを持てたことがウチナーンチュとしての誇りだと心から思う。
 
 ちばらなやーさい。なまからどぅ やいびんどー。なまからどぅ やいびんどー。にふぇーでーびる(頑張りましょう。これからですよ。これからですよ。ありがとうございます)。―――『魂の政治家 翁長雄志発言録』


 
(宮里 綾羽)

 
魂の政治家 翁長雄志発言録
琉球新報社編著 2018年 株式会社高文研
配信申し込みはこちら
毎月第2/第4土曜日配信予定

【本日の栄町市場】

 正月を前にして、市場の活気が絶好調だ。
 肉屋、魚屋、八百屋、乾物屋、花屋、千切り屋、おかず店、コーヒー屋。食べ物に関する店はどこも人がいっぱいで市場全体に生命力が蘇ったみたい。
 普段はスーパーで買い物をしても、正月とお盆の買い物は市場でとこだわるお客さんも多い。
 そのおこぼれを頂くみたいに、普段はいらっしゃらないお客さんが小書店にも顔を出してくれる。
 例えば、去年亡くなった金城艶子さんの従姉妹たち。
 艶子さんは、栄町市場内で南米料理店「SUDAKA」を経営しながらキューバ沖縄友好協会の会長であり、南米の空手マンたちの世話係でもあった。スペイン語と英語を操る才女。自分のことよりも常に人の面倒を見ているような情の厚い人で、誰よりも強烈な個性の持ち主だった。
 向いの金城さんも加わり、生前の彼女の話をたくさんした。人助けばかりしていたよねー、親戚の中でもあんなに強烈な人いないのよ。
 そして、何よりも彼女の作るエンパナーダ!どこで食べてもあの美味しいエンパナーダには出会わない。もう一度食べたいね。
 彼女のことを思い出すことは何度もあった。でも、みんなで賑やかに話すことで不思議な感覚を覚えた。その場に彼女が立ち現れたような。
 騒がしく語り合うその隙間にふと、彼女の気配を感じる。
 じっくりとひとりで彼女を思い出すより、多くの人が騒々しく彼女を語ることで立体的になっていくから?みんなの心が浮き足立つ年の瀬にあちらの世界との割れ目ができるとか?そんなわけないとわかっているけれど、そうだったらいいのにな。
 とにかく、彼女の佇まい、笑い方、照れたときの目の動きまでが蘇ってきた。
 忙しない年末。ポンっと降ってきたようなかけがえのない時間。
 一年の終わりってこういう夢のような宝物のような贈り物が突然やって来る。
 この一年もおつかれさま!と労ってくれるように。
 よいお年を。
宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
多摩美術大学卒業。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。
『本日の栄町市場と、旅する小書店』(ボーダーインク)。
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2018©Ayaha Miyazato, Takashi Ito






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