20161112日 天気:晴れ

 

『続・新世紀へようこそ+』

 先日、「第6回 世界ウチナーンチュ大会」に参加してきた。といっても、国際通りのパレードを沿道で見物して、応募に外れてしまった閉会式会場の外にある芝生に座り、漏れてくる音楽を聞いていただけなのだけど。
「世界のウチナーンチュ大会」は世界に雄飛した県系人の功績を称え、ウチナーネットワークを次世代へ継承、発展させていくための大会だ。
 5年に1度の大きなイベントとあってか、大会期間中は沖縄中がワクワク、ソワソワしていた、、、に違いない。
 店番をしていても、世界のウチナーンチュらしき人々が道を行き交うのが見える。
「わたし、ノンフィクションを探してるんだけど」
黒い服に黒いスカーフを頭巾のように巻き、大きなサングラスを掛けた女性が店の入り口に立って言う。とても細い体にファッショナブルな着こなし。こんがり焼けた肌がエジプトのマダムみたいだ。
 どちらからですか?と聞くと、「アラスカよ」と彼女は答えた。世界のウチナーンチュ大会のためにはるばる沖縄へ帰ってきたのだ。
 恥ずかしながらウチナーンチュがアラスカにいるとは知らなかった。彼女曰く、アラスカにはウチナーンチュが30名ほどいるのだとか。
「もう、みんなおばぁになっちゃってさー。わたしもおばぁだけどさー。もっとおばぁばっかりだから、次の大会にはみんな来れないんじゃないかな。わたしは来るけど」
 その日から彼女は世界から来たウチナーンチュの友人たちと連れ立っては、毎日店の前を楽しそうに往来した。ブラジルからの人もいれば、ペルーからの人もいる。
「沖縄そば食べてきたよー」「中味汁を食べたいんだけど、いい店ない?」
毎日、違う国から来た友人たちと食堂巡りをしているようだ。
 みなさん2世か3世だろうから、幼馴染というわけではないだろう。もしかしたら、5年前の大会で友達になったのだろうか?彼女たちの浮き足立った背中を見て考える。次にお店に来るときには聞いてみようと思うのだけど、いつも忙しそうな彼女についに聞くことはできなかった。
 
 人種とか民族とか、分ける基準はいろいろあるでしょうが、人は雑居が基本の姿です。
 人は動く。動けば異質なものが混じりあう。文化がぶつかり、新しいものが生まれる。経済を活気づける。近代ヨーロッパも現代アメリカも、中世の大イスラム圏もそうやってつくられました。
 今、人の動きはいよいよ活発になっています。どこの国だって異人種を受け入れざるを得ない。共に暮らすのがあたりまえ。摩擦は生じますが、長い目で見ればその摩擦は次の段階へ進むための必須の一歩なのです。グローバリゼーションとは本来そういうことなのです。
 われわれは訓練が足りない。決定的に足りない。―――『続・新世紀へようこそ+
 
新世紀へようこそ+』の続編である『続・新世紀へようこそ+』。9.11以降の世界。イラク戦争を経て終わりの見えないテロの時代に突入してしまった現代への予言のようだ。このような時代をつくり出したアメリカやその背景を内外の知識人との対談も交えながら、淡々と見つめ直す。
 
 わたしたちはこの本が出版されたときよりも更に、不安の時代を生きている。人種や民族、国や宗教、セクシャリティーの違いで憎しみを露にすることが顕著になった。幼いときからそのような差別主義者は恥ずべき者だと教わってきたはずだが、今、彼らは誇らしげな顔でリーダーになっている。
 大きな声で人々を脅かし、不安の種を蒔き散らして、その怒りの矛先を弱い者へと向ける。そして言うのだ、「この国の誇りを取り戻す!」と。弱いもの、異質なものと手を取り合うことができない国にどうやって誇りを持つことができるのだろう。
 そういうモヤモヤとしたものが自分を覆ってしまいそうなとき、わたしは国際通りをパレードした世界のウチナーンチュのことを思い出すことにした。
 パレードする人々の中には様々な顔があった。ウチナーンチュの顔だけではない。多様な人種が混じり合い、様々な言葉が飛び交う。国際色豊かな彼らが沖縄という地に戻ってきた歓びを目の当たりにした。
 アラスカのグループが目の前を通ったとき、お店に来る彼女を見つけた。手を振ると、笑顔で手を振り返してくれた。パレードを楽しげに歩く彼女を誇らしく思った。
 沿道のおばさんたちが「おかえりー」と熱烈な歓迎をしているなか、車椅子を押されながら1世だというおばあさんがやってきた。沿道のおばさんたちが「おかえりなさい。ちゃーがんじゅーしみそうりよー(どうぞ健康でいてくださいね)」とそのおばあさんを取り囲む。おばあさんもおばさんたちも涙を拭いながら手を取り合う。感謝や労いや尊敬が凝縮された姿。その美しさといったらなかった。
 何度打ちのめされても失望しても、わたしがこの世界を信じ続けるのはなぜだろう。
 それは、このおばあさんやおばさんたちのような人がいると知っているから。彼女たちのような人が世界中にいるはずだから。
 長く続くパレード。いつまでも途切れそうにないパレードを見ながら隣のおばさんが言った。
「はっさー、ウチナーンチュの多いことよ!世界中がウチナーンチュなんじゃないのー?はっはっは」

 
(宮里 綾羽)
 
続・新世紀へようこそ+
池澤夏樹著 20149月11日
発行:株式会社ixtan
製作・発売:株式会社ボイジャー
配信申し込みはこちら
毎月第2/第4土曜日配信予定

【本日の栄町市場】

 わたしの店番を支えてくれるのは昼食だ。出前やお弁当が充実しているから、毎日楽しく店番ができていると言っても過言ではないでしょう。
 市場に座るようになってから食生活が豊かになった。新鮮な肉と魚、季節の野菜に果物。美味しくて安いのだから、スーパーから足はどんどん遠のく。
 そうそう、市場は総菜もすごい。わたしが毎日のように食べている、おかずの店「かのう家」のお弁当。300円という値段では考えられないほど充実している。季節の野菜をたっぷり使った4~5種類のおかずに加え、メインの揚げ物や魚が2~3種類。早い時間であれば玄米を選ぶこともできる。午後12時を過ぎると売り切れることが多いので、熾烈な戦いを避けるために常連はみんな予約をする。
 美味しくて野菜がたくさん摂れるこのお弁当を、東京から訪ねてきた友人にご馳走した。「東京でこれを買ったら1000円いくよね?こんなにおかず入って300円って泣ける」
 感動する友人を見て思い出した。店番をはじめたころ、このお弁当に毎日感動して感謝していた。「今日はきびなごが入ってる!」「かぼちゃのコロッケ最高だー」と。きっとわたしだけじゃない。このお弁当に助けられている人がいっぱいいるだろうな。
 改めて、わたしと小書店を支えてくれているお弁当にありがとうって言いたい。
 いや、いつもお客さんのために価格を300円で抑えようと頭を悩ませ、努力している「かのう家」のおじさん、おばさん、ありがとう。
 350円か400円くらいに値上げしてもいいんじゃないかなって、わたしは思ってるよ!それでも充分安いもの。
宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
多摩美術大学卒業。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。
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2016©Ayaha Miyazato, Takashi Ito






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