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【本日の栄町市場】
「一週間に一度、栄町市場にお肉を買いに来ている人がいるらしい」
「その人は銀座でお店をやっている有名人だそうだよ」
そんな噂を聞いてからすぐ、その噂の人に会うことができた。
噂はだいたい合っていて、その方は銀座にお店を構える有名なマスターで、二週間に一度、安座間精肉店で豚肉を買い付けていた。
調べればしらべるほど、すごいお店だった。ハイボールの聖地で、ご本もたくさん出版されている。
お会いした翌日、偶然、東京へ行く用事があったので、店長と母と一緒に勢いで銀座のお店を訪ねてみた。
重厚な扉を開けると、カウンターと奥のテーブルにはお客さんがいっぱい。まだ16時を回ったばかりだというのに!銀座のスタートは栄町市場よりも早いようだ。
糊のきいた白いシャツと蝶ネクタイでビシッと決めたマスターが難しい顔をして壁際のテーブルに案内してくれる。どうやら、お客さんはみんな常連さん。マスターの誰だろう?という表情。「昨日、栄町市場でお会いしました」と伝えると、「あぁ!」と驚いて、なんと常連さん専用であろうカウンターに案内してくれた。
みんなが飲んでいるハイボールをウキウキで注文する。そのあとは、もちろん安座間精肉店のお肉のメニューを探す。あった、あった、三枚肉!と喜ぶわたしたち。
安座間精肉店の三枚肉は分厚く塩茹でされ、キャベツの酢漬けとマスタードと上品に出てきた。わたし、銀座に嫁ぎました。というような顔をして。
そのお肉の美味しかったこと!黄金色に光るハイボールの隣にいても全然見劣りしていなかった。あんた、すごいよ!銀座で立派だよ。と心の中で呟いた。
お店を出てからも、「おいしかったねー」「素敵だったねー」と話すわたしたちの足取りはとっても軽くて、いつしか銀座の街から浮いていた。はず。
銀座の夕暮れは、あのハイボールみたいに黄金色にピカピカと光っていた。
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