20151010日 天気:雨

 

『レギャンの花嫁』

 小書店の前の通りにはブーゲンビリア、ハイビスカス、アメリカンブルー、ジャスミンが咲く。まるで、花々が主役だとでも言っているようなこの小さな通りが好きだ。
 道に落ちた花々がもったいなくて、両隣の店主KさんとJさんと三人でチャナンをつくってみた。色鮮やかでなかなか立派なチャナンが完成した。
 チャナンとは、バリ・ヒンドゥー教を信仰する人々が神様に捧げるお供え物。女性たちが毎朝、ヤシの葉やバナナの皮で作った小さな箱に色とりどりの花を盛り、家の内外にお供えする。常にこれだけの花が咲き誇っているというだけで、バリ島がいかに豊かで美しい島かがわかる。
 KさんとJさんの会話。「はっさー、綺麗だね。こういうことは真似したほうがいいよねー」「いいことは真似したほうがいい。市場でもできないかね?」
 市場でやるなら、商売の神様に供えるのだろうか?それとも、やっぱり先祖に供えるのだろうか。
 
レギャンの花嫁』。タイトルだけでも眩いばかりの光に溢れたバリ島が浮かんでくる。
「花嫁」とあるくらいだから、さぞかし幸せな物語に違いない。バリ島の結婚式はカラフルで美しいのだろうな、と読み始めたが、この物語はとても悲しいお話だった。
 バリ島で電撃的に恋に落ちた茜さんとバリ人のラカ。ふたりを祝福して人々は笑い、ガムランの音色は響き、鳥たちは囀り、緑や花が島を埋め尽くす。
 しかし、結婚式を目前に控えたふたりを突然の悲劇が襲う。ラカが突然、死んでしまうのだ。黒魔術が原因かもしれない、と主人公の恋人は言う。
 
 私も友人から黒魔術の話を聞いたことがある。バリ島に住む彼も黒魔術をかけられたのだそうだ。ある人に施術してもらったら、2センチの釘が体から出てきたとか。
 バリ島には黒魔術もあるし、白魔術もある。彼の体から釘を取り除いてくれたのは白魔術師、バリアン。
 彼の話を聞いた帰りの夜道は真っ暗で、目が慣れないと何も見えない。得体の知れないものたちがこちらを見ているような怖さがあった。加えて、プルメリアや他の花々の濃厚な香りがバリ島の夜を更に強烈なものにした。
 
レギャンの花嫁』の茜さんは、ラカの死を知って一晩中嘆き、悲しみ、泣き続ける。
 しかし、明け方に突然、立ち上がってこう言った。「私は生きているんだから。今日と明日と明後日を生きるしかないのよ。そうよね?」
 スイッチが切り替わるように急に力が湧いてくることが、あの島ならばあるだろうと思った。
 
 バリ島の陽気で色彩溢れる朝は、怖くて真っ暗な夜を飲み込む。
 もちろん、その逆も然り。
 生は死となり、死は生となる。それを繰り返して世界は成り立っている。そういう当たり前のバランスがよくわかる島。全てが濃厚だからこそ、その仕組みははっきりとしている。誤魔化すことなんてできない。
 だから、彼女は「今日と明日と明後日を生きるしかないのよ」と言えたのだ。彼女の生がラカの死を凌駕したのだと思った。
 
 東向きの窓に朝の光が射し始めていました。バリはまた新しい朝を迎えます。
———レギャンの花嫁』より
 
(宮里 綾羽)

 
レギャンの花嫁
池澤夏樹2007年 新潮社
 
配信申し込みはこちら
毎月第2/第4土曜日配信予定

【本日の栄町市場】

 昼間の栄町市場で一番賑わっているであろう、「H」。一見、八百屋に見えるのだが、奥へ進めば、菓子や加工食品だけでなく、日用品も売っているマルチ商店だ。
 家族経営で、社長のおじいさんはいつも店舗内にある半畳ほどの事務所(?)に座っている。たまに、「はい、いらっしゃい!」と大きな声でレジに立つのを見かけるが、「これいくら?」と客に聞いている。
 レジが3台もあり、社長夫人、娘さん2人、お嫁さん、お孫さん2人が忙しそうに立ち働く。彼女たちのテキパキと動く姿を見ると、昼のこの市場には珍しい活気が凝縮されているようでワクワクする。
 「H」の目玉商品はたくさんあるが、私の一押しは果物だ。
 ただの果物ではない、季節の果物が皮を剥かれた状態で並んでいるのだ。
 マンゴー、メロン、スイカ、パイナップル、キウイフルーツ。キラキラと新鮮な輝きを放つフルーツたち。見ているだけでも楽しい。
 中でも私のオススメはグレープフルーツだ。皮だけでなく、甘皮まで剥かれたグレープフルーツはそのまま食べるもよし、サラダに使うもよし、ジュースにするのもよい。お土産にしても喜ばれる。
 賞味期限のある生ものを扱う商売。いかにして食材を無駄にせず、手間ひま掛けて店に並べるか。そのアイデアが今日も「H」をたくさんの客で賑わせている。
宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
多摩美術大学卒業。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。
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2015Ayaha Miyazato, Takashi Ito






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