【本日の栄町市場】
去年の今ごろのはなし。大きな台風がやって来た翌朝、いつもより早く小書店へ向かった。前夜に我慢できず栄町に様子を見に行った店長から惨状は聞いていたが、予想以上の惨状だった。
いつもはシャッターを開けるところから小書店の爽やかな一日が始まるのだが、シャッターの前にはアーケードの骨組みがむき出しのまま垂れ下がり、電気の配線やアンテナ線、電話線、蛍光灯が、右隣のJさんの言葉を借りると、「こんなにまでしなくていいのに」というくらい絡み付いていた。
宮里小書店の前にある鉢植えたちはみな無事で、まるで台風などなかったかのようにそよそよと風に揺れている。見慣れた長閑な風景の中に、ターミネーター崩れみたいな鉄のかたまりがぶらんぶらんと現れ、おまけに立ち入り禁止の黄色いテープが貼り付けられているものだから物騒だ。
片付けるのに電線を切らなければ危険だと分かっているが、何もできずに立ち往生する私の後ろから、鰹節店のOさんが脚立を担いで現れた。
Oさんは無言で脚立に登り、ペンチで手際よく電線を切っていく。「だ、大丈夫ですか?」と間の抜けた質問をする私。
すると!Oさんは電気工だったとういではないですか!
感動する私を尻目にOさんはバッチンバッチン電線を切っていく。
私は普段からOさんの眼鏡は溶接工の人が掛けていそうな、レーザーなんかも出せちゃいそうな近未来的な眼鏡だなぁと思っていたのだ。顔面にピッタリとフィットして、1ミリの鰹節も入れさせやしない!という感じだ。
「そっか、だからこんなにかっこいい眼鏡をかけていたのか」とOさんに言うと、「いや、これは白内障用の眼鏡だ」と、脚立を担いで去っていった。
それからは、鰹節を削る姿が一層かっこよく見えるのでありました。
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