20171028日 天気:台風直撃

 

『星に降る雪』

「十・十空襲のときは地下に掘ってあった壕に逃げた。そこに雨が溜まってさ、膝まであったよ。壕を出るまで二日間立ちっぱなし。でも、全然怖くはなかった」
 Bさんは、わずか五歳で体験した十・十空襲の記憶を先週の出来事のよう鮮明に話す。
「子どものとき、一番、目に焼き付いている光景ってなんですか?」
「家の裏手にある山に逃げた時に海を見たら、見渡す限り、アメリカの船艦だった。水平線も見えなかった。ブワァーとね。ありゃ、すごかったな」
 感情を交えずに淡々と話す。ディテールまで記憶されているから、こちらにもその光景が浮かんでくる。一瞬、そのおびただしい数の船艦が海を埋めつくす光景が迫ってきたように思えて、戦慄した。
 
 光景がまざまざと思い浮かぶ。記憶がその光景を作っている。あれから頭の中で何度も辿り直して、でも誰にも言わなかったこと。―――『星に降る雪』より
 
 登山中に雪崩に遭い親友の哲之を失い、自身も生死を境を彷徨った田村は天文台の技師をしながら、常に星に近い場所にいた。
 同じ雪崩に遭って、やはり助かった哲之の恋人が田村を訪ねて来たとき、彼らは死んだ哲之への喪失感を埋めようとする。でも、哲之はますます彼らの人生に色濃く存在する。死が生きているふたりを鮮明に縁取る。
星に降る雪』に存在するのは純然たる生と死。それは対極にあるのではなくて、実はとても近いもの。対のようなものだ。生きている田村には「死」の影が色濃く纏わり付き、死んだ哲之からは儚い「生」が漂う。
 そうやって、生の中に常に死を含んでいる人がわたしの周りにもいる。Bさんだ。
 
 長く沖縄の音楽シーンを牽引してきたBさん。レコードショップとレコードレーベルの経営、コンサート企画、作詞家、プロデューサーなど、彼の肩書きは数え切れない。
 魅力的な人だから少しでも彼の人生を知りたくて、幼少期の話を聞いてみた。
 1939年に生まれた彼の幼少期は戦争の中にあった。
 爆撃され、集落が焼け野原になり、貯めておいた食料をすべて奪取された記憶の中に、日々の生活や歌の思い出が混じっている。戦争という非日常は、やがて、五歳のB少年の日常となった。その日常の中で、彼は日本兵が歌う歌を覚え、軍歌を替え歌にして過ごした。
 Bさんは常に大きな渦の中心にいる。島唄、演劇、絵画。大きなエネルギーを歌や舞台に投影しながら、加速していくように仕事をして、遊ぶ。
 大いに生きる、という言葉が正しいかわからないけれど、そういう風に感じる。
 それは、死があまりにも身近な光景だったことも無関係ではないはず。
 死に向かって生きるということを、普段、わたしは意識しない。というか、できない。死はいつでも遠くにあり、自分には無関係だと思いながらわたしは生きている。
 それは、わたしが生を謳歌できていないということでもある。死が生を引き立てることをわたしの無意識は理解していない。
 
「十・十空襲はねぇ、最初はまさか、アメリカーだとは思わなかった。いきなりパラパラパラーと爆弾が落ちて来たんだ。あぁ、こういう話があった。いつものように魚釣りをしていたおじさんが、同じ集落の人だったんだけどね、釣りをしていて、大きな魚を釣り上げた。そこに戦闘機が来たわけ。おじさんは友軍だと勘違いして魚を大きく掲げたらしいんだ。自慢するつもりで。それで、そのままダダダダーっと撃たれて死んだ」
 幼かったBさんの記憶がこの光景を作ったのか。五歳の男の子の中に日常的に刻まれた死の光景が体験となり、生へと繋がっていく。それはとても鮮烈な生き方。
 あまりに生々しい喪失の体験が、彼を彼たらしめている。


(宮里 綾羽)
 
星に降る雪
池澤夏樹著 2008年 角川書店
配信申し込みはこちら
毎月第2/第4土曜日配信予定

【本日の栄町市場】

 どこの市場もそうなのだろうけど、栄町市場にも猫が多い。
 野良猫と言えば野良猫なのだが、道の真ん中を優雅に歩いているし、人が近づいても逃げたりしない。市場の女性たちが猫たちを可愛がって、みんなで餌をあげて世話をしている感じだ。
 一度なんて、「ニャー」と小書店に堂々と入ってきて、日当りのいい場所で昼寝を始めた。市場の人たちが店番をしながらうたた寝をする光景はよく見るけれど、お客さんで寝るのはあんたくらいだよー、と話し掛けると、チラッとこちらを見て、また目を瞑る。気持ちよさそう。
 猫たちが特にくつろいでいるのは、「野菜の店 山城」と「町田精肉店」の間のスージグヮー(小路)。山城さんの膝の上に猫が乗っかり、道行くお客さんたちに撫でられている。
 餌には困らないし、みんなが可愛がってくれるし、昼寝の場所はいっぱいあるし、自由だし。栄町市場の猫たちは幸せだなぁ。
宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
多摩美術大学卒業。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。
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2017©Ayaha Miyazato, Takashi Ito






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