2016528日 天気:晴れ時々曇り

『カデナ』

 矛盾の上に咲く花は 根っこの奥から抜きましょう
 同じ過ち繰り返さぬように 根っこの奥から抜きましょう ―――MONGOL800

 MONGOL800のこの曲が入ったアルバムを大学生のときによく聴いた。東京でホームシックになっても沖縄を身近に感じられたから。
 最近、また口ずさむ自分に気づく。
 
 ベトナム戦争末期の沖縄。
 アメリカの空軍に勤務するフリーダ=ジェイソン、移民先のサイパンで家族を失った嘉手苅朝栄、バンドでドラムを叩くタカ。
 3人はコザの町でそれぞれの生活を営んでいる。
 同じアメリカ空軍に恋人がいる軍人として、米兵相手の模型とアマチュア無線の店主として、米兵に人気の若いバンドマンとして。
 そんな彼らが、朝栄のサイパン時代の友人である安南とベトナムへの爆撃情報を米軍から盗み、多くのベトナム人を助けていく様は小説ではなく、本当に起こった話に思えてくる。起こってほしい話、か。
 国家や組織に囚われないひとりの人間としての決断が痛快で、わたしに小さな勇気を与えてくれる。
 サイパンやフィリピン、ベトナム、沖縄での戦争の惨い話が出てくるのに、読後、軽やかな気持ちになったのは、登場人物たちの生き方が潔いから。そして、コザの街や人々のしたたかで楽しい逞しさがよく描かれているから。
 コザ暴動で、蓄積した我慢と怒りが解き放たれていく人々の様子が懐かしかった。まだ、生まれてもいなかったが。          

 アメリカ人の友人がいる。家族ぐるみの付き合いで、休日にBBQやホームパーティー、カフェへ行ったりする。友人は沖縄に駐留するアメリカ軍人だ。
 その一方で、わたしは沖縄にある米軍基地がすべてなくなればいいと思っている。基地は戦争をするためにある。ましてや、基地があるが故に起こる犯罪があるのだから、基地はないほうがいい。
 これは、すごい矛盾だと思う。
 そのうえで、それでも出会った友人たち。
 彼らはときに、家族や親戚であったり、恋人であったり、友人であったり、同僚だったりする。
 人と人が出会うこと、愛すること、解り合おうとすることは理屈では止められない。わたしたちは生きているのだから。
 
 今も忌々しい犯罪が繰り返されている。彼らを凶行に走らせるものはなんだろう。
 犯罪はどの地域にもどの人種にも起こることだと物知り顔で言われる度、沸き上がる憤りと違和感。そして、無力感。
 もちろん、犯罪はどこにでも起こりうる。
 しかし、これは違う。特別な訓練を受けた彼らの中には、日常と戦場を切り離せない人々がいる。もちろん、一部のほんの一部の人だけど。
 在沖縄米軍が基地外での飲酒や午前0時の帰宅を義務付けるそうだ。およそ一カ月間。いつもと同じパフォーマンス。根本的解決をする気がないと宣言しているようにしか聞こえない。
 矛盾がまた根深くなる。
 
 わたしたちが、どうしてこんなに悲しみ苦しむのか。
 防げたはずの犯罪だからだ。沖縄人を軽視するような教育がなされていなければ、犯罪を犯した者をもっと厳しく処罰できれば、沖縄に基地がなければ。
 わたしたち大人がこの島を変えられなかったから、若くて尊い命と尊厳が犠牲になった。何十年経っても、沖縄人の胸に傷として残る。

 今日も矛盾の上で暮らすわたしたち。
 根っこから抜くことができたら、どんなによいだろう。
 まっさらな状態で、またアメリカの友人と出会えたらどんなによいだろう。
 だけど、矛盾を生み出す一つ一つの感情に辻褄を合わせることはわたしにはできないから。無理をすると、嘘と綺麗ごとになってしまう。
 大切なのはわたしの良心だと思いたい。無力かもしれないけど、良心に従って決断したい。生きていきたい。矛盾かもしれないけど。
 自分の良心に背かないフリーダ=ジェイソンのスパイになった理由が好きだ。

 市街戦に巻き込まれて、どっちから砲弾が飛んでくるか、どの空から爆弾が降ってくるか、それもわからないままに逃げまどう自分が、崩壊するイントラムロスを見ていた自分が、今のハノイの誰かと重なってしまう。行ったこともない町なのに、その街路で怯えてすくんで泣いている四歳の女の子の姿が見える。パトリックが運ぶ爆弾がその子の頭の上に落ちないよう、あたしはちょっとしたインチキをする。それができる立場にいるからそれをする。
 抜き打ちの検査で冷や汗をかいて、おしっこちびるほど怯えたって、次の機会にはまたメモを持ち出す。
 ハノイの四歳の少女のために。―――『カデナ』より

(宮里 綾羽)
カデナ
池澤夏樹著 2009年 新潮社
配信申し込みはこちら
毎月第2/第4土曜日配信予定

【本日の栄町市場】

 市場には美味しい食べ物がたくさんある。その中でも、最近、わたしの中で大流行しているのが、「一番餃子屋」の家族特製焼き餃子と家族特製水餃子だ。
 栄町市場の肉屋で調達した豚肉を使った具はジューシーで(栄町市場の肉は本当に美味しいのです!)、目の前で手作りする餃子の皮は厚みがあってモチモチしていてたまらない。ここの餃子のすごいところは、冷えても美味しいことだ。
 この店の残念なところは、昼間開店していないこと。
 昼間に開いていたら、店番を抜け出して毎日あの餃子を食べられるのになぁ。
「一番餃子屋」は餃子の名前の通り、お父さんとお母さん、若いご夫婦、ヨチヨチ歩きのかわいい男の子の家族経営だ。
 北京からやってきたという「一番餃子屋」一家。
 お父さんとお母さんの会話は北京語。若いご夫婦は日本語。
 しょっちゅう行くから、立ち話もよくする。子供の話や里帰りの話。
 でも、何度聞いても彼らの名前が覚えられない。早口だし発音が難しい。名前を覚えられないなんて、なんだかすごく申し訳ない気がして、いつもなんとなく誤魔化す。
 いつものように、店を終えて餃子をテイクアウトした。
「いつもありがとうね。えーっと、えーっと、名前なんだっけ?」
 どうやら、名前が覚えられないのはわたしだけじゃないらしい。ちょっとホッとした。
宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
多摩美術大学卒業。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。
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2016©Ayaha Miyazato, Takashi Ito






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